一昔前まで、カスタマーサポートは「専門職」として認識され、他部門への異動や転職はほとんどない、あっても異なるセンターや会社のCS部門、というケースがほとんどでした。
しかし2000年代後半以降、CSで身につくコミュニケーション能力や問題解決能力、マネジメントスキルなどが見直され、他部門への異動・転職も活発化しています。そのため、「CSでの経験を最大限生かしてキャリアアップしたい!」と考えている方も多いのではないでしょうか。
そこで本記事では、厚生労働省が作成した「キャリアマップ」の概念やCS職の標準的なキャリア形成について解説します。
ご自身のキャリアを考えたいという方も、部下のキャリア形成を支援して成長につなげたいという方も、ぜひ最後までチェックしてください。
キャリアマップとは
キャリアマップとは、「キャリア(経歴・職歴)」を形成する標準的な道筋を示すものです。
<キャリアマップのイメージ図>
出典:厚生労働省 キャリアマップ、職業能力評価シート 導入・活用マニュアル(事務系職種の人材育成のために)
厚生労働省は、「*職業能力評価基準」として設定した4段階のレベル区分に基づいて、以下4つの要素を記載したキャリアマップを作成。ホームページ上から誰でもダウンロードして活用できるようにしています。
・キャリアの道筋
・各レベルの習熟の目安となる年数
・レベルアップする際にカギとなる経験・実績
・関連する資格・検定等
*職業能力評価基準:様々な業種や職種別に、仕事に求められる知識・技術・能力などをレベル1~4に分けて整理したもの。
キャリアマップの目的
従業員に対してキャリアマップを示す目的を一言でいうと、”人材育成のため”です。
より具体的にいうと、以下のような効果が期待できます。
①将来のキャリアに関する目標意識を高める
②キャリア形成の実現に向け、具体的な行動を促す
③上司と部下の間でキャリアに関するコミュニケーションを活発化させる
効率的・効果的なスキルの習得を実現する
特に、現場で働いているオペレーターやSVたちは、日々の問い合わせやクレーム対応に追われて、「今のままでいいのだろうか?」といった不安を抱きがちです。これを放置すると、最悪の場合、休職や退職してしまうリスクもあります。
そういった事態を避けるためにも、キャリアマップを使って定期的に上司と話し合い、「○年後に管理者を目指す」などの中期的・長期的な目標を明確にしておくことは非常に重要です。
カスタマーサポート内でのキャリア
ここからは、厚生労働省が作成した事務系職種のキャリアマップを参考に、CS職のキャリアの道筋について解説します。
まず、CS内で昇進を目指す場合には、以下2通りの道があります。
- 管理者になる
- スペシャリスト(専門職)になる
管理者になる
CSのオペレーターとして習熟した先には、以下のような管理者になる道があります。
・LD(リーダー)
・SV(スーパーバイザー)
・マネージャー/センター長 など
オペレーターとして優れているからといって、必ずしも管理者になれるわけではありません。管理者に適しているとみなされるのは、以下のようなスキルや実績を有している方です。
・後輩の指導経験
・業務改善や効率化の実施経験
・部門の課題解決実績
・リーダーシップの発揮経験
・組織としての業績改善実績
管理者の素質があると判断された場合は、マネジメントに関する研修を受け、管理者として必要な知識を学びます。
役職の種類や職務は部署の規模によって異なるため、自社にはどんなポジションがあるのかをチェックしておきましょう。
スペシャリスト(専門職)になる
オペレーター職で高い能力を発揮している人には、スペシャリストとして活躍する道もあります。
スペシャリストには以下のような種類があり、いずれも管理者とは別の立場からオペレーター業務をモニタリングします。
・QA(品質保証)
・OJTサポーター
・トレーナー
・ナレッジマネージャー
スペシャリストには、製品や業界に関する幅広い知識と専門的なスキルが求められます。知識やスキルが身に付けば、転職の際にも有利です。
ただし、マネジメントのように研修制度が整っていない会社が多いのが実情。スペシャリストを目指したい方は、早いうちから上司に相談し、キャリアパスを確認しておきましょう。
カスタマーサポート以外でのキャリア
CS以外でキャリアを築きたい場合、以下のような選択肢があります。
- 営業・販売
- コンサルタント
- カスタマーサクセス
- 企画・マーケティング
営業・販売
CSから異動するケースが多い部署は、営業や販売です。
CSと同じく顧客と接する業務が多いため、今までに培った自社製品に関する知識や、コミュニケーション能力を存分に生かすことができます。
【関連記事】コールセンターで身に付くスキルとその活かし方とは? - CallCenter Times(コールセンタータイムズ)
また、営業や販売部は会社の売り上げに直結するため、求人数が多いという特徴もあります。株式会社SalesNowが2023年に行った調査によると、「セールス」は求人数の多い職種の第2位にランクインしてしました。部署異動や転職を考えている方にとって、チャンスが巡ってきやすいポジションと言えるでしょう。
コンサルタント
CSと親和性の高い職種として、コンサルタントも人気です。
CSの業務では、顧客が抱えている問題を”スピーディー”かつ”正確に”解決する「問題解決能力」が常に求められます。この点がコンサルタントと共通しているため、CS経験者が活躍しやすいポジションです。
注意すべきなのは、顧客から問い合わせを受ける”受動的”なCSに対し、コンサルタントは顧客に対して”能動的”に働きかけ、顧客も気付いていないような課題を発見・解決していく能力が求められる点です。
一見問題はなさそうに見える顧客に対しても、現状維持ではなく、さらに高みを目指す提案をする必要があるため、成長意欲が高い方に適しています。
カスタマーサクセス
近年注目を集めている「カスタマーサクセス」も、CS職から転身しやすい職種です。
カスタマーサクセスとは、商品やサービスを購入した顧客に対し能動的に関わり、「顧客の成功体験」を実現する部門のこと。「SaaS」をはじめとする継続利用型サービスの提供企業に多く導入されている。
新規顧客の獲得や契約締結に焦点を当てる営業職とは異なり、アフターケアを通じてチャーンレート(解約率)の低下やLTV(顧客生涯価値)の向上を目指す。
コンサルタントと同じく、カスタマーサクセスにも能動的に顧客と関わっていく姿勢が求められます。顧客の成功を自分の成功と捉えられる「顧客志向」の方に適している職種です。
カスタマーサクセスについてより詳しく知りたい方は、ぜひ以下の記事も参考にしてください。
企画・マーケティング
自社の商品やサービスについて熟知しているCS職の方は、企画やマーケティングの部署に異動するケースもあります。新しい商品やサービスを開発する際には、既存商品に対する顧客の生の声が参考になるため、CS時代の人脈も役に立つでしょう。
一方、他社の企画部やマーケティング部に転職するのは、なかなか容易ではありません。”即戦力”が求められる中途採用では、マーケティングの経験や実績が重視されるからです。そもそもマーケティング職は求人数が少ないこともあり、厳しい戦いとなるでしょう。
「どうしても転職して企画やマーケティングがやりたい!」という方は、長期的な視点をもち、まずは今の会社でマーケティングの実績をつくることをおすすめします。
まとめ
CS職のキャリア形成について、具体的なイメージがわいたでしょうか?
先述の通り、厚生労働省は以下のサイトにて、様々な業種・職種のキャリアマップを交付しています。
▶キャリアマップ、職業能力評価シート及び導入・活用マニュアルのダウンロード|厚生労働省
ぜひダウンロードの上、本記事でご紹介したキャリアの選択肢や自社の組織図を元にアレンジを加えて、『自社版のキャリアマップ』を作成してみてください。
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