厚生労働省が2020年に行った労働者調査によると、全国の企業・団体に勤務する20~64歳の男女労働者のうち、過去3年間に勤務先でカスタマーハラスメント、いわゆる「カスハラ」を経験した人の割合は15%でした。
一方、株式会社リックテレコムが実施した調査では、過去5年間にカスハラを体験したコールセンターの従業員は約40%。対象期間に差はあるものの、お互いの顔が見えないコールセンターでは、対面よりも強い言葉でなじられることが多いと言えるのではないでしょうか。
そこで本記事では、コールセンターに特化したカスハラ対策について解説します。カスハラを未然に防ぐ方法もご紹介するので、ぜひ最後までチェックしてください。
コールセンターのカスハラ対策
コールセンターにおけるカスハラ対策は、以下の3ステップで構成されます。
2.定義したカスハラの対応方法についてマニュアルを作成する
3.従業員教育を行う
1.自社における「カスハラ」を定義する
まずは、自社にとって何を「カスハラ」と判断するのかを定義する必要があります。
カスタマーハラスメントとは、顧客や取引先などからのクレーム全てを指すものではありません。顧客からのクレームには、「商品やサービスの改善を求める正当なクレーム」と「過剰な要求を行ったり、商品やサービスに不当な言いがかりをつける悪質なクレーム」が混在しているため、オペレーターは判断に迷ってしまうのです。特に、普段から『顧客中心主義』を経営理念にしている企業ほど、現場はすべての顧客の要求に応じようとし、疲弊するばかりです。
カスハラか否かの判断を迅速にし、現場を守るためにも、「こういう行動をとったら自社にとって顧客ではない」という線引きを明確にしましょう。
厚生労働省が発表した「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」では、カスハラの定義として以下3つのポイントを挙げています。
- 顧客の要求の内容が妥当性を欠くもの
- 要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なもの
- 当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの
こうしたポイントを押さえた上で、「特定のワードが出たらカスハラ」「何時間以上通話を続けたらカスハラ」といった具体的な内容に落とし込みましょう。
株式会社リックテレコムによると、実際にコールセンターで用いられているカスハラの定義には、以下のようなものがありました。
「月刊コールセンタージャパン 2022年11月号」を参考に作成2.定義したカスハラの対応方法についてマニュアルを作成する
カスハラを定義し、明文化したら、現場の対応方法についても具体的なマニュアルを作りましょう。
厚生労働省の「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」を参考に、コールセンターにおけるカスハラの対応に役立ちそうな情報を以下にまとめます。
【対応例】対応できない理由を説明し、応じられないことを明確に告げるなどの対応を行った上で、膠着状態に至ってから一定時間を超えた場合に電話を切る。複数回電話がかかってくる場合には、あらかじめ対応できる時間を伝え、それを超過する対応はしない。
2.リピート型(理不尽な要望を繰り返し電話で問い合わせてくる)
【対応例】連絡先を取得し、繰り返し不合理な問い合わせがくれば注意して次回は対応できない旨を伝える。それでも繰り返し連絡がくる場合は、窓口を一本化して、今後同様の問い合わせを止めるように毅然と対応する。状況に応じて、弁護士や警察への相談を検討する。
3.暴言型(大きな怒鳴り声を上げる、「馬鹿」といった侮辱的発言をする)
【対応例】大声を張り上げる行為はやめるように求める。侮辱的発言や名誉棄損、人格を否定する発言に関しては、後で事実確認ができるよう録音し、程度がひどい場合には弁護士や警察への相談を検討する。
4.威嚇・脅迫型(「殺されたいのか」といった脅迫的な発言、または「対応しなければ株主総会で糾弾する」などブランドイメージを下げるような脅しをする)
【対応例】複数名で対応し、対応者の安全確保を優先する。また、状況に応じて弁護士への相談や警察への通報を検討する。
5.権威型(正当な理由なく特別扱いを要求する)
【対応例】不用意な発言はせず、対応を上位者と交代する。要求には応じない。
6.SNS/インターネット上での誹謗中傷型(ネット上に名誉を毀損する、またはプライバシーを侵害する情報を掲載する)
【対応例】掲示板やSNSの被害については、掲載先のHPなどの運営者に削除を求める。投稿者に対して損害賠償を請求したい場合は、必要に応じて弁護士に相談しつつ発信者情報の開示を請求する。解決策や削除の求め方が分からない場合には、法務局や違法・有害情報相談センター、誹謗中傷ホットラインなどに相談する。
7.セクシュアルハラスメント型(従業員を食事やデートに執拗に誘う、性的な内容の発言を行う)
【対応例】性的な言動は録音による証拠を残し、事実確認を行った上で加害者には警告を行う。それでも繰り返す場合には、弁護士への相談や警察への通報を検討する。
3.従業員教育を行う
自社のカスハラの定義やその対応方法について周知徹底するために、従業員教育は欠かせません。定期的にカスハラ研修を行い、現場と認識を合わせましょう。
また、商品やサービスの改善を求める”通常のクレーム”に対する対応方法を練習しておくことも重要です。オペレーターが何でもカスハラと捉えて対応を回避し、VOC収集の機会を逸してしまわぬよう、ロープレなどを通してクレームへの耐性をつけておきましょう。
クレーム対応を行う際のポイントは、以下の記事を参考にしてください。
カスハラを未然に防ぐポイント
カスハラは、そもそも発生しないに越したことはありません。そこで本章では、カスハラを未然に防ぐポイントを4点ご紹介します。
- 契約プランやWebサイトをシンプルにする
- 通話を録音していることをアナウンスする
- カスハラ対策を社外にもアピールする
- 「3つのカエル」を意識する
契約プランやWebサイトをシンプルにする
毎月定額を支払うサブスクリプションが普及する中、契約プランやWebサイトの複雑さが原因でクレームになるケースも少なくありません。「解約したいけれど、ネット上の手続きが分かりづらくてイライラする……」といった経験をした方も多いはずです。
こうしたトラブルを未然に防ぐには、シンプルで分かりやすいサービス設計が必要です。特に、定期購入の停止や変更手続きはWebサイトの浅い階層に置き、ネットに不慣れな人でもスムーズに手続きできるように配慮しましょう。
通話を録音していることをアナウンスする
様々なコールセンターシステムの普及により、最近では通話内容を録音するコールセンターが増えていますが、録音している旨を適切にアナウンスできているでしょうか?
コールセンターでの通話録音は相手に通知しなくても違法ではありません。しかし、嫌がらせ目的のクレームを抑止する効果があるため、最初に自動音声を用いて「この通話は迷惑電話防止や品質向上を目的に録音されています」とアナウンスすることをお勧めします。
また、万が一トラブルに発展した際にも、録音は裁判における証拠としての能力をもちます。
コールセンターで通話を録音するメリットは、以下の記事も参考にしてださい。
カスハラ対策を社外にもアピールする
カスハラを寄せ付けないためには、企業HPやメディアを通じてカスハラ対策をアピールするのも効果的です。
最近では、鉄道会社が駅構内にカスハラに関するポスターを掲示しています。厚生労働省も以下サイトにてカスタマーハラスメント対策啓発ポスターを配布しているため、適宜活用しましょう。
▶職場におけるハラスメントの防止のために(セクシュアルハラスメント/妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント/パワーハラスメント|厚生労働省
このように従業員を守る姿勢を社外へ発信することは、顧客だけでなく求職者へのアピールにもつながります。
「3つのカエル」を意識する
「3つのカエル」とは、怒りで興奮しているクレーマーは「人」「時間」「場所」のいずれかを変えると落ち着く傾向がある、という考え方です。
コールセンターの場合、場所を変えるのは困難ですが、人や時間を変えることは比較的容易に実践できるでしょう。傾聴し事実確認をとった上で、事態が悪化する前に責任者からかけ直す形にして一度電話を切る、という対応方法が有効です。
まとめ
カスハラ対策は相手の不当な主張に対して毅然と対応することが重要ですが、「他社ではやってくれたのに」と言われて迷いが生じることもあるでしょう。
こうした事案を減らすために、企業間でも連携し、業界全体でカスハラへの対応を標準化していく取り組みが求められています。コールセンターの管理者の方は、ぜひ積極的に他社とも情報交換や議論をするようにしましょう。
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