かねてからコールセンターに浸透しているIVR(自動音声応答システム)に加え、近年ではAIの進化によって顧客対応の自動化が進んでいます。
楽天コミュニケーションズの調べによると、AIチャットボットによる応対の自動化を活用、または活用を予定しているコールセンターは、66.8%にのぼりました。
今後もこの傾向は強まる見込みですが、同時に、「チャットボットでは問題が解決しなかった」「オペレーターにつながる窓口がないと不安」といった声が根強いのも事実です。
そこで本記事では、有人対応の必要性やメリット・デメリット、AIと使い分ける際のポイントについて解説していきます。
有人対応の必要性
上の図は、一般消費者が商品やサービスに関して不具合が発生した時に、どのような解決方法を望むかを聞いたアンケートの結果です。(調査対象:回答を得た全国の20~79歳の男女1,647人)
これによると、約6割が「有人対応」を希望。一方で、「自己解決」を望むのは約3割でした。年代によって多少の差はあるものの、40代以下でも約半数が有人対応を望んでいます。
近年では、コールセンターの人手不足を背景にAIを活用した無人対応が増加し、かつては当たり前だった有人対応が特別なものになりつつあります。そんな中、商品やサービスの問合せや問題の解決には、有人対応を希望する消費者が多いようです。
コールセンターで有人対応を行うメリット
コールセンターで有人対応を行うメリットは、以下2点です。
- 複雑な問い合わせにも対応できる
- 顧客ロイヤルティが強化される
複雑な問い合わせにも対応できる
自動化されたシステムでは定型的な回答しかできないのに対し、有人対応では複雑な問題や個別の状況に応じたサポートが可能です。
例えばクレームが入った場合には、迅速かつ丁寧に、以下のような対応をとらなければなりません。
①お客様に不快な思いをさせたことへのお詫び
②お客様への傾聴と事実確認
③自社に落ち度があるか否かの判断
④お客様からの質問や要望の把握
⑤解決策や代案の提示
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コールセンターのクレーム対応のコツ - CallCenter Times(コールセンタータイムズ)
このようなケースバイケースの判断が伴う問い合わせは、仮に一部をシステム化できたとしても、人間のオペレーターやSVなしにクロージングするのは困難です。
マニュアル化し切れない事態でも、柔軟に対応できるのが有人対応の大きな強みと言えるでしょう。
結果的に問い合わせの解決率が向上するので、顧客から信頼を得ることができます。
顧客ロイヤルティが強化される
AIなどを活用した無人対応は、あくまでも生産性や効率の向上を目指したものです。
顧客ロイヤルティを高め、ロイヤルカスタマーを増やす役割は、人間のオペレーターが担っています。
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有人対応で顧客ロイヤルティが強化される主な理由は、以下の3点です。
・個人の状況や感情に寄り添った対応をしてもらえるから
・オペレーターが直接対応することで、顧客が「大切にされている」と感じるから
・機械的なステップを踏む必要がないため、迅速に解決策に辿り着けるから
このように、有人対応はカスタマーエクスペリエンスの向上に貢献しています。
コールセンターで有人対応を行うデメリット
コールセンターで有人対応を行うデメリットは、以下3点です。
- 人件費がかかる
- 応対品質にばらつきが出る
- オペレーター研修に時間がかかる
人件費がかかる
有人対応には人件費がかかり、システムの維持費と比べてもコストが高くなりがちです。
特に、大量の問い合わせがある場合や、24時間対応を行う場合には、多くのオペレーターを雇用する必要があり、運営コストが膨らみます。
応対品質にばらつきが出る
有人対応をしていると、オペレーターのスキルや経験により、応対品質にばらつきが生じることがあります。
特に新人や経験の浅いオペレーターは、ベテランと比べて対応に時間がかかったり、臨機応変な対応ができなかったりしがちです。
オペレーター研修に時間がかかる
オペレーターの応対品質を向上させるには、適切な研修やトレーニングが必要です。
業務内容が高度になるほど研修に要する時間は増えるため、指導にあたるSVや社員のリソースも割くことになります。
有人対応とAIを使い分けるポイント
ここまで有人対応のメリット・デメリットを挙げてきましたが、いずれもコールセンターを運営する上で見過ごせない内容です。有人対応のデメリットを補い、メリットを最大限に生かして「人による対応」の価値を高めることこそ、今後の成功の鍵になるでしょう。
そこで本章では、コールセンターで有人対応とAIを使い分ける上でのポイントを4つご説明します。
- 問い合わせ内容の複雑さ
- 緊急性や感情的なサポートの必要性
- 問い合わせの時間帯や時期
- コスト効率
問い合わせ内容の複雑さ
単純な質問や定型的な手続き(例:住所変更、残高確認など)は、AIチャットボットやIVR(自動応答)で対応するのが効率的です。オペレーターにつながるまでの待ち時間がなくなり、素早く問題が解決できるので、お客様にとっても利便性が向上します。
一方で、複雑な問い合わせやロイヤルカスタマーを対象にしたサービス(例:複数の問題が絡むクレーム対応、顧客の状況に応じたカスタマイズ対応など)には、有人対応が適しています。
AIが一次対応をした上で、解決できなかった問い合わせはオペレーターにつなぐ、という対応をとっているコールセンターも多く存在します。
緊急性や感情的なサポートの必要性
商品やサービスにまつわる緊急トラブルや、顧客の不満や困惑が強い状況では、オペレーターによる有人対応が適しています。特に、業務用機器や医療機器のように高額な商品を扱っている場合、感情に寄り添った対応ができなければ、低価格の商品以上に深刻な顧客離れを招きます。
AIは問い合わせに対して迅速に回答できるものの、感情的なサポートには限界があるのが現状です。
問い合わせの時間帯や時期
問い合わせが集中するピークタイムや繁忙期、また営業時間外の問い合わせには、AIによる一次対応がおすすめです。
基本的な情報提供や簡単なトラブルシューティングを行った後、解決できなかった内容だけをオペレーターにエスカレーションすることで、待ち時間を減らし、効率的に顧客対応が行えます。
コスト効率
よくある問い合わせや定型的な内容にはAIを利用することで、コスト効率を高められます。
対して、オペレーターは顧客ロイヤルティを向上できるケースに注力することで、有人対応の価値の向上を狙いましょう。
まとめ
AIはコールセンターの業務効率を大幅に向上させていますが、依然として多くの顧客がオペレーターの「安心感」や「相互コミュニケーション」を求めています。
AIを最大限に利用しつつ、オペレーターは有人対応の強みが生かされる場面に特化できる環境づくりが、今後さらに求められていくでしょう。