コールセンターを委託したいと考えている企業にとって、気になるのはサービスの質。それを定量化して比較できるようにしたのが、「SLA」です。
最近では、ホームページにSLAを掲げているコールセンターもあるため、気になっている管理者の方も多いのではないでしょうか?
そこで本記事では、SLAの概念やメリット・デメリット、運用方法などについて解説します。
SLAとは
SLAとはService Level Agreement(サービス・レベル・アグリーメント)の略。サービス提供者と利用者の間で締結する「サービスレベルの合意」や「サービスレベルの保証」を意味します。
形のある製品を販売する際に品質保証が付属するように、形のない通信サービスやクラウドサービスにおいても品質の保証をするために生まれた概念です。
コールセンター業界においては、以下のような項目をもってサービス水準を決め、企業とコールセンター業務を請け負う会社との間で合意書を取り交わします。
- 応答率
- SL(Service Level。一定時間内にオペレーターが応答したコールの割合)
- 一次解決率
- CPC(Cost Per Call。1コールの応対あたりにかかるコスト)
- CPH(Call Per Hour。1時間に1人のオペレーターが応対したコールの数)
- 稼働率
- 顧客満足度
SLAで設定した目標に達しなかった場合は、コールセンター側がペナルティを負って利用金額の一部返金などの補償を行うのも特徴です。
「SLO」との違い
SLAと間違われやすい専門用語として「SLO」があります。
Service Level Objectiveの略で、日本語にすると「サービスレベル目標」。
SLAを履行するためにサービス提供側が定める目標値であり、利用者側には開示されません。そのため、SLOの目標を超えなくてもペナルティはなし。
目標値は、SLAよりも厳しい数値を設定するのが一般的です。例えば、SLAで応答率80%を保証するのであれば、SLOでは応答率85%を目指して確実にSLAを達成できるようにします。
コールセンターにおけるSLAのメリット
コールセンターがSLAを導入するメリットは、以下の3点です。
- 透明性と信頼性の向上
- 競合他社と差別化できる
- サービス品質の向上
透明性と信頼性の向上
SLAを締結することによって、以下の3つの透明性が確保されます。
・サービスの内容や品質
・責任範囲や補償方法
・運営上の指標やルール
こうした事項が不明瞭だと、委託元の思い込みや高過ぎる理想によりトラブルを招く恐れがあります。その上、責任の所在も曖昧なので、話し合いが難航する可能性も高いでしょう。
トラブルを防ぎ、委託元と信頼関係を構築するためにも、SLAの導入をおすすめします。
競合他社と差別化できる
SLAを作成することで、競合他社との差別化が期待できます。
コールセンターの代行会社を選ぶにあたり、どの企業も重視するのが「電話対応の質」です。しかし、ホームページやパンフレットに掲載された謳い文句だけでは具体性に欠け、信頼し切れないのが正直なところでしょう。
そのため明確な数値をもってサービスレベルを保証するSLAは、コールセンターを選定する上で重要なポイントになります。SLAには品質が守られなかった場合の対応も定められているので、安心して契約・運用に進めます。
サービス品質の向上
SLAによりコールセンターが目指すべき指標が明確になると、サービス品質の安定や向上につながります。
その理由は、主に以下の3つです。
<SLAでサービス品質が向上する理由>
・企業側の期待を理解し、それに応じたサービスを提供できる
・サービス品質に対する責任が明確化され、その向上に取り組む動機付けが促進される
・サービス品質を定期的に見直し、改善するようになる
・SLAを達成するためにより厳しい目標値のSLOを設定してPDCAをまわすようになる
コールセンターにおけるSLAのデメリット
コールセンターがSLAを導入するデメリットは、以下の2点です。
- 導入と管理運営にコストがかかる
- 実現不可能な目標を設定するケースがある
導入と管理運営にコストがかかる
SLAの導入や管理運営には、人的にも金銭的にもコストがかかります。
例えばSLAを達成するために、オペレーターを増やす、業務内容を見直す、システムを入れ替えるといった改善が必要になり、相応のコストが発生するかもしれません。
また、定期的に指標をチェックし、委託元に報告するための資料等を用意するには、管理者のリソースが割かれることを理解しておきましょう。
実現不可能な目標を設定するケースがある
コールセンターによっては、競合他社との差別化を意識し過ぎるあまり実現不可能なSLAを設定してしまうことがあります。
現場の実情と乖離した高過ぎる目標値を掲げると、オペレーターの士気が下がり、かえってサービスの品質が落ちてしまうリスクがあるので注意しましょう。
コールセンターにおけるSLA運用の流れ
コールセンターでSLAを運営する流れは、以下のとおりです。
1. クライアントのニーズを理解する
2. SLAに必要な4つの要素を決定する
3. 関係者への情報共有
4. パフォーマンスのモニタリング
5. 改善策の実施
1. クライアントのニーズを理解する
SLAを設計する前に、まずはクライアントのニーズを理解します。
SLAの目標として一般的な応答率、CPH、顧客満足度などの期待値から考えると分かりやすいでしょう。また、比較されるであろう同業他社や業界標準を調査しておくことも重要です。
必ずしもクライアントのニーズに応えられる訳ではありませんが、スムーズに合意に運ぶためにも、相手の期待値を把握しておきましょう。
2. SLAに必要な4つの要素を決定する
必要に応じてクライアントとやりとりしながら、SLAで定めるべき以下の4つの要素について決定します。
前提条件
拠点数、端末数、業務量、通信回線の速度など、数値目標を守る上で前提となる条件を決定します。
保証対象のサービス
一言に「インバウンド (受電) 業務」や「アウトバウンド (架電) 業務」といっても、細かく見れば様々なサービスの集合体です。責任範囲を明確にしてトラブルを未然に防ぐためにも、保証対象のサービスを決めておきましょう。
数値目標
先方のニーズとコールセンターの現状を踏まえて数値目標を決めます。
数値化できない曖昧な項目を目標にすると、先々のトラブルに繋がるため控えましょう。
ペナルティ
取り決めが守られなかった場合のペナルティを定めます。
ペナルティは利用料金の一部など、上限額を設けて返金を行うのが一般的です。
なお、災害やシステム障害など不測の事態に備えて、例外事由も決めておくと安心です。
3. 関係者への情報共有
SLAで決定した内容は、オペレーターを含むすべての関係者に共有しましょう。全員がSLAの目標を理解し、それに向けて努力できるようにしておくことが重要です。
4. パフォーマンスのモニタリング
SLAの達成状況を定期的にモニタリングし、必要に応じて調整を行います。
定期的なレポートやデータ分析を行い、問題が発生している場合は対策を講じましょう。
また、クライアントに対しても定期的にレポートを共有する必要があります。SLA違反が発生すると気付いた場合には、謝罪とともに「何が起こったのか」「次にとるアクションは何か」をできるだけ早くクライアントに報告しましょう。悪い知らせこそ、時間を置かないことが大切です。
5. 改善策の実施
SLAの達成度や顧客満足度を改善するための施策を行います。
特にSLA違反が発生した場合には、必ず原因や傾向を特定し、適切な改善策を講じましょう。
まとめ
SLAについて理解が深まったでしょうか。
SLAはコールセンターが信頼を得るために有効な概念です。積極的にクライアントを増やしたいコールセンターは、ぜひ導入を検討してみてください。
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